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連載コラム Vol.122
醸造家が考える「ワインの評価」 その2
  Written by ポール・ドレーパー  
 
カリフォルニアワイン産業の復興は1970年代に弾みがつき、味を見てみるべきワインの数は飛躍的に増えていった。醸造家の仕事をしていると、週に数回はテイスティングをする機会がある。ブドウ畑内での選別にまつわる重要な判断をするためだったり、品種のブレンド比率や清澄作業の程度を決めるためだったりである。テイスティングをしていて、当時も今も明らかに思えることがひとつある。正しい判断を下すためには、一度に味を見るワインの数を絞るべき、ということだ。たとえば30種類のワインを試飲するなら、6種類ずつ5つのグループに分けてやる。コメントや評価はグループ単位で行い、ひとつのグループが終わったら短い休憩をはさむようにする。この6種類という数が、自分が集中して正確な評価をできる上限だとわかっているのだ。さて、大規模なワインコンテストの主催者は、「専門家によるパネル」を一日の間しか集めておかないのが普通だし、長くても二日である。その短い期間に、専門家たちは100種類ものカベルネに点をつけるのだ。時には、シャルドネを、ジンファンデルを、ソーヴィニョン・ブランを、もう100種類ということさえある。これだけたくさん試飲すると、たちまち味覚が鈍ってしまい、一番大柄でオークの風味が強く、果実味の最も強いワインに注意が向くようになる。そういう銘柄には「ショー・ワイン」というふさわしいあだ名がついているのだが、食事とともに楽しめるような、バランスよくまとまった色気のあるワインであったためしがないのだ。

ならば、こうしたワインコンテストの効用とはいったいなんなのか。ひとつには、一般消費者に新しい銘柄を紹介するという役割がある。新興ワイナリーにとって、コンテストは有名になるチャンスなのだ。それだけではない。コンテストによって、凡庸なワインと優れたものの差がわかることがあり、消費者にとってはある程度のガイドラインになる。しかしながら、いくら頭をひねってもそれ以上のメリットがでてこないので、1970年代半ばになると、メダルを与えるような形式のコンテストには出品しないようになった。

一方、同じぐらいの時期から、勉強熱心なワインショップの役割が増し、人々に優れたワインを積極的に紹介するようになった。店主と店員たちは多種多様のワインを幅広く味見し、勝手に売れていく有名銘柄だけでなく、自分たちが個人的に気に入ったワインも選んでいた。自分たちの商品を把握しており、気の利いたアドバイスを客にすることができた。よいワインショップに足を運ぶと、一対一の接客をしてもらうことができ、ワインの知識が豊富な本物のプロと相談することができるようになったのだ。同じ頃、ワインライターたちも表舞台に立つようになり、単行本で、雑誌で、新聞のコラムで、ワイン産地への旅や豪華な試飲会といった、ワイン好きの興味を引く話題を提供するようになった。百科事典の体裁をとる本もあれば、ヒュー・ジョンソンの著作のような、世界中のワイン産地の地図帳もあった。特定のワイン産地に絞って、歴史、ブドウ畑、ワインを深く掘り下げるような本も著わされ、たとえばエドムンド・ペニング・ローゼルによる『ボルドーのワイン』は、この産地に関するバイブルと評された。ただ、こうした本の数々は、必ず過去について書かれたものだった。ワイン購入の手引書として活用する場合、著者が述べる生産者のスタイルやこれまでの評判を踏まえた上で、どの銘柄の現行ヴィンテージを試すべきか。

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 ポール・ドレーパー
 リッジ・ヴィンヤーズ 最高醸造責任者 兼 CEO