Archives
連載コラム Vol.121
醸造家が考える「ワインの評価」 その1
  Written by ポール・ドレーパー  
 
※数回に渡り、ポール・ドレーパーが1994年に発表した、「醸造家が考える『ワインの評価』」なる小文を訳出する。十年以上前に書かれたものだが、現在も十分なアクチュアリティを有している。

1)60年代から70年代にかけて
1960年代のカリフォルニアで、ワイナリーの試飲販売所を訪ねると、メダルや賞状の数々が壁に並んで飾られているのをよく目にしたものだ。この頃、大手のワイナリーは、メダルの絵柄をラベルに印刷することまであった。しかし、実際にそんなワインを試飲してみると、どうということのない味であることが多く、メダルが何を讃えているのかわからなくなったものである。

60年代末にリッジで働き始めた頃、共同経営者のひとりと付き合いのあるとある人物が、南カリフォルニアでかつて有名だったワインコンテストを復活させた。この友人は、自分の企画に参加してくれるよう、リッジに頼んできたから、それから数年の間、付き合いでコンテストに参加することになった。リッジはまだ新しいワイナリーだったから、時々手にいれた金メダルのおかげで、私たちのことを知らない人達がワインを試してくれたことが間違いなくあったように思う。しかしながら、大手のワイナリーがいつもメダルを受賞していたのが不思議だった。市場に出回っているワインは、明らかに賞をもらうような質ではなかったからだ。好奇心に駆られて審査員に尋ねてみると、コンテストに参加するには、一銘柄あたりわずか800リットル弱の量さえあればいいのだという。以前に受賞したワインを長いあいだ熟成させた、特製品を審査に出している生産者もいると聞いたときにはがっくりときた。毎年毎年、同じワインがエントリーしているような場合すらあったのだ。審査員たちは、審査に出てきたワインを個人で買うことを許されていたが、なにせ量が少ない物だから、一般消費者の手に入ることは決してなかった。これは極端な例ではあるものの、結局私たちは、金メダルを競うあらゆるコンテストを遠ざけるようになった。また、ワインを審査するという行為全体に対し、批判的な眼を向けるようになった。

Archives
 ポール・ドレーパー
 リッジ・ヴィンヤーズ 最高醸造責任者 兼 CEO