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連載コラム Vol.120
古木の味わい パガニ・ランチ
  Written by 立花 峰夫  
 
 リッジが造るジンファンデルの中で、最も樹齢の高い樹から造られているのがパガニ・ランチのワインである。12ヘクタールある畑の樹はすべて、1896年から1922年に植えられたもので、ほとんどが樹齢100年を超す。リットン・スプリングス、ガイザーヴィルにも古木は植わっているが全部ではない。パソ・ロブレスの畑(ドゥージー・ランチ)もすべて古木で樹齢が高いが、1923年の植え付けである。

 リッジのジンファンデルはそれぞれに個性があり、いずれも甲乙付けがたいのだが、個人的に一番好きなのはパガニ・ランチだと思う。生まれた初めて飲んだジンファンデルのワインも、リッジのパガニ・ランチ 1994だった。当時まだ、フランスワインしか飲んだことがなかった私は、強烈な風味にノックアウトされてしまったのをよく覚えている。

 パガニ・ランチには、樹齢以外にもいろいろ例外的な点がある。ソノマ・ヴァレーの北部にある畑はとにかく冷涼で、リッジが扱うブドウの中で一番収穫が遅い。11月になってから摘み取りが始まることも珍しくない。パガニからブドウがくれば、秋の仕込みももう終わりである。

 古木の畑の例に漏れず、パガニ・ランチも複数品種の混植になっているのだが、珍しいのはアリカンテ・ブーシェという品種である。この品種、タンチュリエという果肉まで赤い黒ブドウのグループに属しているので、果汁が真っ赤。パガニ・ランチの濃い色には、この品種の存在が貢献している。

 果実風味のピュアさ、強烈さもこの畑の特徴だ。ヘクタールあたり25〜45ヘクトリットルという低収量のブドウは、爆発的に強くリキュールのような黒系果実の香りを放つ。発酵が始まって二日もすれば、タンクからこの畑特有の香りが立ち上るようになる。冷涼な畑だから酸は強いのだが、ブドウの熟度が低いわけではなくむしろ逆。アルコール度数が15%を超えることも珍しくはなく、そういう年にはラベルにレイト・ハーヴェスト Late Harvestの文字が加えられる。

 リッジがパガニ・ランチのブドウでワインを造りだしたのはそれほど昔のことではなく、1991年が最初である。4世代にわたってこの畑を所有するパガニ一族は、この年ブドウの売り先に困り、ポール・ドレーパーを頼ってきたのだという。今では考えられない話だが、当時この畑はまったく無名だったのだ。優れた品質を高く評価したドレーパーは、買えるブドウをすべて引き取り、畑名入りのワインを造った。このデヴュー・ヴィンテージは素晴らしい出来栄えで、ワイン・スペクテイター誌の年間トップ100で10位以内に入る。パガニ一族が長年畑で重ねてきた努力は報われ、パガニ・ランチはアメリカ有数のジンファンデルの畑として評価されるようになった。

 ソノマにあるワイナリー、セント・フランシス St. Francis も、同じパガニ・ランチからブドウを購入し、ジンファンデルのワインを造っている。リッジのものとはかなりスタイルが違うので、飲み比べてみると面白い。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。