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連載コラム Vol.117
ジムソメア・ランチのジンファンデル その3
  Written by 立花 峰夫  
 
今回で、ジムソメア・ジンの連載は終了する。前回からの続き、アメリカ版ニュースレターに以前掲載された文章の訳出でである。

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 ブドウが収穫されたあとも、ワイナリーでの苦労が続く。最初のハードルは、到着するブドウの量が少ないことである。ポール・ドレーパーは最近、容量1トンという発酵タンクを設計し、こうした小さなロットに対応できるようにした。四角形をしたこの密閉式タンクは、熱が逃げるのを防いでくれるが、それでも天然酵母が発酵を始めるのには時間がかかる。房のサイズが小さいことは(これはピケッティ・クローンの特徴である)、ほとんど皮と種しかないということである。つまり、酸素供給を目的とした初期のポンプ・オーヴァーを行うにあたって、使用できる果汁の量が少ないのだ。毎年、ゴム長靴を履いた多くのスタッフが、頭を抱えながらタンクの周りをうろつきまわる。なんとかならないかと悩んでいるのだ。しかし、いつもなんとかなるもので、辛口ワインになるまで発酵は進んでくれる。

 最後のハードルは、マロラクティック発酵である。冷涼な気候下で育ったブドウなので、完熟してもなお高いレベルの酸が含まれている。マロラクティック発酵(リンゴ酸が乳酸に変わる工程で、どんな高級ワイン造りにおいても決定的に重要)をつかさどる微生物は、酸が高い環境を好まない。このプロセスは通常感謝祭(11月第4木曜日)までに終わるのだが、ジムソメアのジンファンデルでは新年になってもまだまだ続いてる。その間中ずっと、ワインがどうなっているか頻繁に状態を確認せねばならない。

 だが、ワインが瓶詰めされると苦労が報われる。ブドウの成熟を鑑みながら、何度も畑に足を運んで摘み取りをしたことで、完成したワインにはふくよかで深い風味がもたらされる。それでも、アルコールが高くなりすぎたりはしない。酸が十分にあるため、ジャムのような果実味に飽きがこないから、ジムソメアのジンファンデルは料理にほんとうによく合う。収量が低く、房が小さいことから、タンニンが和らぎ、アロマと風味が調和するまでには最低でも五年の熟成が必要である。しかし、それだけの熟成を経たあとは、何かひとつの要素が支配的になることはない。際立った個性をもつジムソメアのジンファンデルは、ついグラスを重ねてしまうワインであり、皆でわかちあい、楽しむことができるのだ。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。