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連載コラム Vol.112
不況にジンファンデルを
  Written by 立花 峰夫  
 
 昨秋からの世界同時不況、リッジのあるアメリカ合衆国がその震源である。ワイン業界の景気も当然よくはない。以前、このコラムでも伝えた大手ワイナリー売却・買収の話もぴたりと止んでしまった。スタッグス・リープに続いて売却が決まっていたシャトー・モンテレーナ(1976年パリ対決の白部門一位)なぞは、買い手(スイスの金融長者)の資金状況が悪化してしまったため、売却話が流れてしまったほどだ。悲喜こもごもである。

 リッジの本拠地モンテベロ・ワイナリーは、シリコン・ヴァレーからすぐの位置にある。そのせいで、「誰がいま、IT業界で幅を利かせているか」がとてもよくわかるらしい。つまり、その時々シリコン・ヴァレーで金を持っている連中が、ワインを買いにくるのである。昔は「日本人ばっかり」だった時期もあるらしいが、昨年秋以降はインド人ばかりだという話だ。とはいえ、インドのIT産業も欧米からの受注が急速に減っているというから、これからはインド人客も減るのだろう。

 アメリカで最も売れているワイン雑誌、Wine Spectatorの最近の号を見ていたら、実に景気の悪いコラムが載っていた。同誌でカリフォルニアワインを担当するコラムニスト、ジェームズ・ローブによるもので、「What Now for Wine Lovers?」というタイトルのもの。意訳すれば「不況時代のワイン術」という感じだろうか。「値段を品質の指標と考えるのを止めよう」「使う金額の上限を決めよう」「セラーにワインがあるなら、そこから飲もう」「自分で料理をして、外食費を浮かそう」などなど、あの派手な雑誌には似つかわしくない、実につましいアドバイスが並んでいる。

 その中に、「飲むワインの幅を広げよう」というものがあった。いわく、「今こそ、マイナーなワイン、品種、産地に目を向けるときだ」そうで、ロワールのシュナン・ブラン、ジンファンデルとプティット・シラー、オーストリアのグリューナー・フェルトリナーが具体例として上がっている。

 そうか、ジンファンデルをそんなふうに使う手もあるのか、と膝を打つ。確かに、高級カベルネ、高級ピノ・ノワールしか飲まないような愛好家なら、ジンファンデルに鞍替えをすることでコストセーブができるだろう。リッジの看板ジンファンデルなら、スケール感でもフィネスでも高貴品種にひけをとらない。

 ストラクチャーを愛するカベルネ好きの方ならリットン・スプリングスを、しなやかな果実味を愛するピノ好きの方ならガイザーヴィルを、ぜひ一度お試しいただきたい。安いとは言わないまでも、カリフォルニア産高級カベルネやピノの半分の値段だ。それでいて、カベルネやピノにはない、新しい世界が見えること請け合いである。この不況を機に、日本でのジンファンデル人気が高まるといいのだが。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。