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連載コラム Vol.107
2008年ハーヴェスト・レポート No.3
  Written by 立花 峰夫  
 
 10月末、2008年のハーヴェストが大成功で幕を閉じた。黒川信治氏からからの現地レポート、今年の最終回をお届けする。

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 収穫期の真只中の10月4日(土)に降った雨は、非常に微々たるもので、大勢に影響のないおしめり程度の量0.13インチ(3.2mm)であった。どちらかというと、過酷な乾燥状態のストレスにさらされている葡萄にとっては、天の恵みであったのかもしれない。
 週明けの10月7日(月)には、全ての畑でサンプリングを行い、雨の影響がないことを確認して、収穫のタイミングとなっていた4つのブロックを3日かけて収穫した。
 そして、穏やかな秋の天候に助けられ残りの葡萄は、じっくり葡萄の木の上で成熟を進め、10月21日に最後の収穫を無事終えることが出来た。
 この時期、葡萄の中では、糖度が上がり酸度が下がっていくと同時に、香気成分が未熟な香りから成熟した香へと変わっていく。暑い日が続くと糖度の上昇が早くなりすぎて、香気成分が熟する前に収穫をしなければならないことも起こりうるが、幸いなことに、2008年は穏やかな気候に恵まれたため、じっくり香気成分が熟する時間が確保できたことで非常に良好なフィニッシュを迎えることが出来た。
 2008年の葡萄の粒は、平年に比べが小さめであることもあって、この素晴しい香気成分がより凝縮された味わいとなっている。さらにしっかりしたタンニンと酸味をもつ、まさに長期熟成向きのワインになったと感じられた。

 RIDGEでは、葡萄の収穫するタイミング、プレスするタイミングといった、ある工程から次の工程へ移行する際は、すべて味によって判断している。葡萄は毎年異なった顔を持っているので、そのときの個性を重視して一番良い状態で次の工程へ進める必要がある。そのためには数値だけでは見えてこないものが多い。たとえば、今年であれば、葡萄がしっかりしたタンニンを持っていて容易に抽出されてしまうので、日々のポンプオーバーは非常に注意深く、例年に比べて抑え気味に行う必要があった。
 この各工程の判断をテースティングにゆだねることの唯一の欠点は、過去のヴィンテージを振り返ったときに、個人の感覚的な記憶しか残らないことである。そこで、テースティングによって判断したサンプルを定量的に分析することで、記憶を記録として残している。
 タンニンやアントシアニンの含量もそのひとつで、自社分析のほかに外部の分析機関に測定依頼を行っている。そのデータを見ても、2008年のワインは、よく成熟した年の傾向をしっかり表していた。
 春の霜の害並びに記録的な乾燥した生育期と非常に過酷なヴィンテージであった2008年。それを乗り切った葡萄は、サバイバルな年を象徴するように生産量は少なめであったが、品質においては神様がくれたご褒美ではないかと思われるような優れた出来となった。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。