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連載コラム Vol.101
モンテベロ 2007 アッセンブリッジ その6
  Written by 立花 峰夫  
 
 前回までのコラムで、毎年行なわれるアッセンブリッジの手順を見てきた。こうした試飲に参加して印象的なのは、複数のワインを混ぜる(=ブレンド)というこのプロセスが進むにつれて、「モンテベロらしさ」が強く感じられるようになることだ。これは通念の逆である。

 ブレンドという行為は通常、ワインのスタイルをコントロールする人為的介入だと捉えられる。すなわち、程度の多少はあれども、ブレンドはブドウ畑の個性を減じてしまうものだと。ブレンドによって、醸造家はブドウ品種やロット毎の配合を変えることにより、ワインのスタイルを左右することができる。例えば、カベルネを多く加えればタンニンと骨格が強くなるだろう。メルロを多くすれば、ワインに丸みが出て、異なる果実風味も要素として加わる。その意味において、単一品種・単一畑から造られた少量生産のワイン、たとえばブルゴーニュの特級や一級のワインこそ、我々がテロワールと呼ぶ「その土地らしさ」を最も純粋に表現したものだと言えるだろう。

 だが、モンテベロに関する限り、アッセンブリッジでテロワールの特徴が薄まっているとは思わない。むしろ、アッセンブリッジによって、モンテベロのテロワールの個性は強められているように感じる。というのも、この長いプロセスにおいて焦点となっているのは、ブドウ畑の個性であるからだ。試飲の参加者たちは、ただ最高の区画だけを選び出してブレンドを行なっているのではない。品質にも優先するような唯一絶対の基準があり、それは各区画が、モンテベロの典型的特徴にどれだけ近いかというものである。この典型的特徴とは、過去の全ヴィンテージから抽象されたもの。すなわち、強いミネラル感、しっかりとした酸、グラマラスな味わいなどである。ポール・ドレーパーたちは、先行するすべてのモンテベロ(2007年時点で46ヴィンテージ)の姿を想起しながら、グラスを傾けているのだ。

 畑の個性の反映を絶対的な基準としているため、毎年モンテベロとして瓶詰めされるワインの量は安定しない。どれくらいの量になるかは、試飲の結果でしかないのだ。量が確認されるのは、すべてのディスカッションが終わったあとであり、「●●ケースぐらいは造りたいから、このロットは含めておこう」といった判断がなされることはない。とあるロットをモンテベロにするか、セカンド・ワインのサンタクルーズ・マウンテンにするかで、ワイナリーの売上げが大きく変わるにも関わらずである。これはかなりすごいことだと思われる。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。