Archives
連載コラム Vol.73
ドレーパー来日セミナーから その1 亜硫酸無添加ワイン
  Written by 立花 峰夫  
 
 今回から何度かにわけて、ドレーパー来日セミナーの中から興味深いトピックを取り上げる。まずは今日本でも話題沸騰中の、「亜硫酸無添加ワイン」について。

 リッジでは自然なプロセスを尊重したワイン造りを行なっているが、酸化防止剤/殺菌剤としてほぼすべてのワインで用いられている亜硫酸については、必要最低量は使用するという方針だ。破砕時に少量加え、その後は熟成期間中に活性亜硫酸の量が必要最低ラインを割り込まないように、適宜少しずつ加えていく(熟成期間中に、活性亜硫酸の量は徐々に減っていく)。

 もちろん、なしで済むなら加えないにこしたことはない亜硫酸だが、無添加でワインを造るのはあまりにリスクが大きいのだ。「必要最低限の亜硫酸なしで、優れたワインを毎年安定的に造り出すことは不可能だ」と、ドレーパーは断言する。気候条件がよく、カビ害などがない年には亜硫酸なしでも優れたワインが造れるかもしれないが、翌年条件が悪ければ同じようにはいかない。この不安定さは、商業ワイナリーとしては大きな問題だとドレーパーは指摘する。「同じ高級レストランで食事をするごとに、味や質が大きく違うようなことがあるだろうか?」

 亜硫酸無添加でワインを造る生産者の多くが、ビオディナミという自然なブドウ栽培法を実践している。ドレーパーは、ビオディナミそのものについては一定の評価をしているが、亜硫酸無添加は別の話だという。実際、ビオディナミの教え自体には、ワインづくりの具体的方法までは含まれていない。ブルゴーニュ地方でビオディナミを実践する高名な造り手、オベール・ド・ヴィレーヌ(ロマネ・コンティ社のオーナー醸造家)やアンヌ・クロード・ルフレーヴ(ドメーヌ・ルフレーヴ当主)も、必要最少量の亜硫酸は使用している。

「ニコラ・ジョリという、ビオディナミの実践者として有名なロワール地方の造り手がいる。彼はよく、『ワインは本物でなければならない』と話している。私は彼の意見に賛成だが、ただしワインは『本物』だというだけでなく、味もよくなければならないと思う。味がよくなければ、いかに自然な方法で造られていても、いかに優れた畑のブドウを使っていても、単に悪いワインでしかない。『本物』であってもよいワインとは言えず、そこにはいかなる言い訳も認められないのだ」と、ドレーパーは語っている。

Archives
 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。