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連載コラム Vol.44
コルクor代替栓? No.1
  Written by 立花 峰夫  
 
 昨今、スクリューキャップなど、天然コルク以外の「代替栓」への切り替えをするワイナリーが多い。だがリッジでは、目下のところ天然コルクが最良の栓だと考えている。ポール・ドレーパー/エリック・バウアー曰く、「コルクの細胞構造は、信じ難いほどの弾力性を生むので、液体を漏らさぬための栓として最適である。だが同時に、顕微鏡的なレベルでの多孔性を有するため、空気を完全には遮断しない。酸素がゆっくりと瓶内に侵入するのだが、この酸素によってワインのアロマは開花し、タンニンも和らいでいく。年を経るごとに、より楽しめるワインとなるのである」
 だが、コルクに問題がないわけではない。最大の問題はコルク臭/ブショネなどと呼ばれるTCAのトラブルである(※)。この悩ましいトラブルの発生を最小限にするため、リッジでは非常に手間のかかる品質管理を行っている。まず多数のコルクメーカーから小ロットずつの購入を行い、一社一製品集中によるリスクを避ける。購入候補となるロットについては、すべてメーカーからTCA分析のデータを提出させている。その上でサンプルを取り寄せ、購入前にワイナリー内で厳密な官能検査を行うのである。
 官能検査は、なかなかに面白い方法を採用している。ハーフボトルほどの容量の小瓶を複数用意し、それぞれに購入候補のロットのコルクを詰め込む。そこにシャルドネのワインを注ぎ、8~10時間ほどコルクを漬け込んでおく。仕込みが済んだら、瓶内のワインを複数のパネルでブラインドテイスティングし、どのロットのコルクを漬け込んだワインが、一番風味の面で優れるかを判定するのである。その結果が良かったロットについては、別の日に再度同じテストがなされた上で、ようやく購入が決定される。
 あまり知られていないことだが、コルクはニュートラルな物質ではない。ワインに漬け込んでおくと、コルクそのものが持つ、オークのような香ばしい香りがワインに付くことがはっきりと分かる。上記の官能検査は、TCAを含むロットを購入前に突き止めることが第一の目的ではあるが、コルク固有の風味の良し悪しを判定することも兼ねている。リッジでは、コルクがワインに付与する香りをも、樽香と同様ポジティブなものと考えている。
 製品が届いたあとも、使用前に最終のテストがなされる。納品されたすべての袋からランダムにサンプルを抜き出し、同様の官能検査を行うのだ(ここでTCAが検知されたら、そのロットは返品となる)。こんなわけだから、ワイナリーに滞在すると、しょっちゅうコルクの試飲が行われているのを目にすることになる。地味で労力のかかるプロセスだが、すべては手塩にかけたワインにケチを付けないためのこと。その甲斐あって、リッジにおけるコルク臭の発生率は低い。
 
(※)TCAとは、塩素が残留するコルク上である種のカビが発芽することによって生じる化学物質。数~数十ppt(per per trillion=0.0000000001%)という微量でもワインに不快なカビ臭を与え、果実味を減じてしまう。天然コルクやコルク原料のテクニカルコルクで栓をした全ワインの、約5パーセントで発生しているとされる。
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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生として醸造を経験。