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連載コラム Vol.154
2010年ハーヴェストレポート No.3
  Written by 立花 峰夫  
 
現地でワイン造りに加わっている、大塚食品の醸造家 黒川信治氏からのハーヴェストレポートの続報をお届けする。雨の間をぬっての収穫作業、今年は最後まで気が抜けない年のようだ。

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 前回のレポートにて少し触れたが、10月17日は天気予報どおり雨が降った。
 なんと、この後、計ったように3週連続して、週末に雨が降った。
 最初の10月17日(日)の雨は、記録ではtrace(痕跡)となっているようにお湿り程度で、まさに収穫に水を差すような雨ではなかった。
 二回目の翌週23日(土)に降った雨は、RIDGEのワイナリーの脇にあった樹齢100年を超えるクルミの木が、人の胴回りもあるような幹の途中から真っ二つに折れる(「Y」の字が「イ」の字になっていた)激しい風であったが、降水量は0.3mmと少なく、葡萄にとっては影響が少ない雨であった。
 最後の30日(土)が、一番降水量の多い雨(1.0mm)となった。この雨は、予報では28日(木)から降り始めるはずであった。実際には、数キロ離れた周辺の街では予報どおり雨が降っていたが、雨雲がこのワイナリー含む半径10kmのエリアを避けるように広がっていたこともあり、雨に降られることなく28日に13トンの収穫を行うことが実施できた。
 結果として、この三度の雨の合間を縫って10月14日から28日までに、モンテベロの葡萄157トンを収穫した。

 RIDGEでは、畑とセラーが分業されており、担当が別れている。そのため、通常であれば、畑の担当者がセラーで働くことはなく、セラーの担当者も畑で働くことはない。また、応援が必要な場合は、2009年の嵐の前の時のようにリットン・スプリングスの畑の管理チームに応援を要請している。しかし、この時に限っては、急な雨の予報に変わったこともあり、動員が間に合わなかった。その空白は、1日だけであったが、出来る限りの収穫を行うために普段セラーで働くクルーを動員しての収穫が行われた。(過去には、セラー担当者が収穫を手伝うことは度々あったらしいが、私がRIDGEに参加してからの10年では、はじめてのことである)。このときは、醸造責任者のエリックも自ら収穫に参加していた。また、たまたまその日にRIDGEでは重役会議が行われていた。その会議終了後、畑で収穫を手伝うRIDGEの社長と人事の責任者の姿を目にすることができた。

 現時点で、モンテベロ以外の葡萄は収穫を終え、モンテベロの葡萄についても9割近い収穫が終わっている。これまでの葡萄の出来は、モンテベロのカベルネやメルローも、ジンファンデルやカリニャンなどと同様に色や香りのしっかりしたものが多く見られる。これを見る限りでは、2010年も非常によいヴィンテージになりそうである。

 残す葡萄は、約20トン。その内訳は、1区画のカベルネ・フランを除き全てカベルネ・ソーヴィニヨンである。果皮のしっかりした品種で、ジンファンデルやシャルドネのように、雨による病害の心配の少ない品種であるところはラッキーである。さらに、ラッキーなことに長期予報では、この先2週間ほど晴天が続くといわれている。そのため、じっくり腰を落ち着けて2010年最後の収穫を締めくくることが出来そうである。

2010年11月1日 黒川信治


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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。