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連載コラム Vol.139
グルナッシュ・ノワール
  Written by 立花 峰夫  
 
リットン・スプリングスに植わる黒ブドウ品種のひとつが、グルナッシュ・ノワールである。ただし、リットン・スプリングスのジンファンデルにはブレンドされず、別途「リットン・エステート・グルナッシュ」の名前のワインとして瓶詰めされている。これは、グルナッシュ主体で、ジンファンデル、プティット・シラーなどがブレンドされた力強くスパイシーなワインである。

グルナッシュ・ノワールは、世界で第三位の栽培面積を誇るブドウ品種で、スペインからフランスにかけての地中海沿岸に広く植わっている。晩熟の品種であるため、温暖な気候の産地でしか栽培されない。高いアルコール、豊富な果実味、ドライハーブやスパイスが渾然一体となった複雑な風味をもつブドウ品種で、濃厚な赤ワインに仕立てられる。単独でワインになることはまれで、他の品種があれこれブレンドされるのが一般的である。南フランスでは、スティルワインだけでなく、ロゼや甘口酒精強化ワインの原料としても活躍している。なお、突然変異によって白い果皮やピンク色の果皮を持つタイプもあり、それぞれグルナッシュ・ブラン、グルナッシュ・グリと呼ばれている。

この品種から生まれるワインの中で最も高名なのは、フランス・ローヌ地方のシャトーヌフ・デュ・パープと、スペイン北西部のプリオラトである。いずれも、1980年代に入るまでは冴えない田舎酒と思われていた銘柄だが、有力なアメリカ人ワイン評論家のロバート・パーカーが激賞したことで、一気にスターダムを駆け上がった。日本市場ではさほどでもないが、パーカーの本拠地であるアメリカにおいては、どちらの銘柄も高い人気を誇っている。

アメリカのカリフォルニア州にこの品種が伝わったのは19世紀のこと。ほかの品種同様、グルナッシュの畑に混植され、今日まで生き残っている樹が少数ながら見られる。2007年時点での栽培面積は2,900ヘクタールと決して多くないが、それでも黒ブドウの中では第8位の面積である。セントラル・ヴァレー地区に比較的広く安酒用のブドウ(主にロゼを生産)が植わっているほか、メンドシーノ郡にもこの品種の畑がある。

リットン・スプリングス・ワイナリーの醸造責任者であるジョン・オルニーは、かつてリットンのジンファンデルをシャトーヌフ・デュ・パープに例えた(一方、ガイザーヴィルのことは、同じローヌ地方産だがシラーから造られるコート・ロティに例えている)。果実味とアルコールが豊富なところ、渋味が控えめでさほど長い寿命を持たないところ、単独よりも他品種がブレンドされたほうが光るところ、いろんな用途に用いられるところなど、グルナッシュとジンファンデルには類似点が多いように思われる。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。