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連載コラム Vol.136
カリニャン
  Written by 立花 峰夫  
 
ジンファンデルの古木の畑には、様々なブドウがゴタ混ぜに植えられているのが常である。前回までのコラムで紹介したプティ・シラーのほか、カリニャン、グルナッシュ、マタロ(ムールヴェドル)、アリカンテ・ブーシェなど。こうした混植の営みについては、当コラムNo.118&119で詳しく述べられている。今回のテーマはカリニャンである。

リッジにおいては、ガイザーヴィル、リットン・スプリングス、パガニ・ランチなどのジンファンデル主体のワインにブレンドされているカリニャン。特に、ガイザーヴィルではブレンド比率が高く(20%弱)、その典型的スタイルはこのブドウに負うところも大きい(デイヴィッド・ゲイツによれば、ブレンドされたカリニャンはワインの果実味を快活なものにし、酸味とエレガンスを強める役割を果たす)。またリッジでは、1999年ヴィンテージよりアレキサンダー・ヴァレーにあるブキニャニ農園のカリニャンを購入し、この品種100%のワインも生産している(日本未発売)。ブキニャニのブドウは、1927~1952年の間に植えられた古木である。出来上がるワインは、洗練された味わいとは言い難いものの、独特の野趣と人なつっこさが印象的なものだ。

カリニャンは晩熟のブドウなので、温かい産地にしか植わっていない。酸味、渋味、苦味のすべてが強いのが特徴で、若いうちは少し飲みにくい(とはいえ長期熟成ができるわけでもない)。高貴さとはまったく縁のないブドウで、フランスではダメ品種の見本のようにも見られている。とはいえ、国を問わず、低収量の古木の畑からは、素晴らしいワインが生まれるのだ。

カリニャンは、カリフォルニアの黒ブドウ品種の中で第11位の栽培面積を持ち、2007年時点で1,668ヘクタールの栽培面積がある。栽培の中心は、ソノマではなく暑いセントラル・ヴァレー。安価な赤ワインやロゼワインの原料に使われており、品種名表示ワインに使われることはほとんどない。

フランスでは、スペイン国境付近に広がる地中海沿岸の地域、ラングドック&ルーション地方が栽培の中心で、そこでは今日でも最も幅を利かせているブドウである。20世紀末にメルロが追い抜くまでは、フランスで最も栽培面積の広い黒品種であった。急激に作付けが増えたのは1960年代で、ヘクタールあたり200ヘクトリットルに達する高い収量と、芽吹きが遅く霜害にあいにくい点が栽培家に好まれた。ところが、ワインの消費量が減り、南仏の安いワインが深刻な供給過剰に陥った1980年代以降は、減反政策のターゲットとなる。1968年に21万ヘクタールあった面積が、2006年には7.4万ヘクタールまで減った。

なお、カリニャンの原産地はスペイン北東部のアラゴン地方だと考えられている。アラゴン地方にはカリニェナという産地まであるのだが(カリニェナは、カリニャンのスペイン名)、皮肉なことに今ではあまりこのブドウが植わっていない。

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 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。