Archives
連載コラム Vol.128
2009年ハーヴェストレポート No.1
  Written by 立花 峰夫  
 
今年もすでに収穫作業が始まり、最初の山を迎えている。現地で働く醸造家 黒川信治氏からの、臨場感あふれるレポートを今後数回お届けする。

*****************************

2009年ヴィンテージも9月4日に、昨年同様、パソロブレス(北のブロック)で幕を開けた。続いて、9月6日、再びパソロブレス(南のブロック)、9月8日のジムソメアのシャルドネ、9月10日のマゾーニ、9月11日のガイザーヴィルとゆっくりとした滑り出しであった。 ところが、9月13日にこの時期のカリフォルニアでは考えられない雨。この雨は0.21(5.3mm)インチとわずかな量でブドウへの影響はなかったが、ブドウの房の中の湿気が乾く17日まで、収穫を待つこととなった。

雨に続き訪れたのが、同様に、この時期にしては珍しい異常な暑さであった。ソノマ地区のリットンスプリングス・ワイナリーのあるヘルデスバーグでは、9月21日から27日まで連続して、華氏100度(37.8℃)を超える日が続き、モンテベロ・ワイナリーのあるクパチーノでも華氏90度(35.6℃)前後を記録している。この暑さの影響で、ゆっくり始まった収穫が一気に加速することとなり、22日から本日29日まで、毎日収穫が続いている。(途切れない収穫作業は、10月初旬まで続く予定である) 一方で、暑さのほうは26日をピークに気温が下がり始め、29日には急激に温度が下がった。26日と29日の気温は、ヘルデスバーグでは華氏109度(43度)が67度(19℃)に→温度差24℃、クパチーノで華氏96度(36℃)が70度(21℃)→<温度差15℃>で、真夏から一気に晩秋に変わった感じである。 5月にも同様の暑い日寒い日を極端に繰り返すことがあり、2009年の特徴のひとつといえる。

では、2009年の生育期全般を通しては、どんな年であったか振り返ってみたいと思う。 まず、記録的乾燥したヴィンテージであった2008年の流れを受けて、待望された冬の雨は、思いのほか少なかった。そして、出芽は例年に比べて早い3月から4月。寒い春。そして、5月下旬の雨。それに続く夏も全体的にみれば寒かった年。 「2009年も雨の少ない年であった。2008年との違いは、同様に少ない雨だったがいいタイミングで降ってくれた。出芽と開花の間に降る雨は、ブドウの樹にとっては恵みの雨である」(栽培責任者 デヴィッド・ゲイツ談)。 そうはいうもののこの寒さの影響が、カベルネとメルローの作付けに出ており、「ジンファンデルとシャルドネは影響なく平年並みであったが、カベルネとメルローは、花振るいを起し、作付けが少なくなっている」(前述 デヴィッド・ゲイツ談)。これは、開花の早いジンファンデルとシャルドネとその後で開花するカベルネの違いが出たと思われる。 また、平年であればジンファンデル・シャルドネ→メルロー→カベルネと順番に収穫を迎えるので、収穫もタンクのやりくりも問題なく行われる。ところが、今年は「ジンファンデルが約2週間遅れ、カベルネ・メルローが2週間早めに生育期が推移している」(前述 デヴィッド・ゲイツ談)ところへ、この暑さが相俟って、この4つの品種が同時に成熟することとなり、ワイナリーの中は、てんてこ舞になっている。 畑にサンプリングに行っては、ブドウの成熟度合いを見ながら収穫のタイミングを計り、タンクのやりくりを考える。それを踏まえて、ポンプオーバーをどうするか、プレスのタイミングをどうするか、先の天気がどうなっていくか、一度に収穫できる限界は何トンか、人の手配はどうするか等々、考えることが山積みである。 そこに加えて、今年は収穫されたブドウを受け入れる設備を新設しており、その設備を使いこなすのにも苦労している。(この話はまた後日)

気候に続いて、気になるのは、今年の出来である。 これまでに、約半分のブドウが収穫を終えてタンクと樽の中で発酵中である。ここまでを見る限りでは、2009年も素晴らしいヴィンテージになりそうである。 モンテベロブドウ園で今年一番に収穫された黒ブドウのジムソメアのゲートブロック(カベルネ)の発酵当初の試飲を行ったときに、これまでに味わったことのないような、奥深い魅力を感じた。これは自分が気づかなかっただけなのか、ブドウの出来がそうさせたのか、わからないが、とにかく香りがしっかりしていて、奥行きのある深い味わいであると感じた。このワインに代表されるように今年のブドウは全般の特徴として、香りと酸味がしっかりしていて、エレガントな要素を強く感じる。 モンテベロの醸造責任者であるエリック・ボウハーに今年はどんな年であるか聞いてみたところ、「フレーバーがしっかりしていて、酸とタンニンのバランスが素晴らしい。果実が品種の特性と土地の特性をはっきり示している年。畑にサンプリング行った時に感じた畑をとりまく全ての要素をタンクに持ち込んできているようだ。ここまで見た限りでは、今年もGreat Vintageが期待できそうだ。」そして、それは正にテロワールのことではないか?との質問に、うれしそうに「Yes」と答えていた。 最後にお決まりの質問には「一気にブドウが入ってくる忙しさも品質も含めて、今年は19997年のようだ」と。

昨日までの天気予報によると、来週の初めに雨と出ていたが、今日になって撤回されていた。今、雨に降られるのは、残りのブドウへの影響を考えると避けたい所であり、うれしいニュースであった。 毎年のことであるが、今年も畑とセラーと天気予報からは目が離せないようである。(9月29日)

Archives
 立花 峰夫
 フリーのワインライター/翻訳者。
 2003年ヴィンテージには、リッジ・ヴィンヤーズの研修生
  として醸造を経験。