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連載コラム Vol.125
ワイン生産者の選択肢:二つの世界の最良部分 その1
  Written by ポール・ドレーパー  
 
ワイン生産者が醸造において伝統的なアプローチをとるなら――それはすなわち、もっと工業的なアプローチをとらないということだが、重点が置かれるのは自然と自然なプロセスであるはずだ。人間が作り出せるものではなく、ということである。もちろん、そこまで言うと誇張が入るのだが、二つのアプローチの差をはっきりさせるためには、こうした物言いも悪くはないだろう。伝統的なやり方では、最良のワインを安定して生み出すために、自然なプロセスをワイン生産者が導いてやらねばならない。しかし、その際人はあくまで案内役にとどまるべきで、何かを作る立場に立つべきではない。リッジでは、両方のアプローチを取り入れており、収穫されたブドウに応じてどちらにするかを決めている。

伝統的なワインづくりでは、自然が前面に出てくる決定的なポイントがふたつある。ひとつめが畑において、ふたつめが果実がワインに生成変化するプロセスにおいてである。ここでは、ブドウ畑の側面のみを考えていくことにしよう。ただし、昨今使われすぎの嫌いがある「テロワール」というフランス語を用いたくはない。この言葉は、カリフォルニアにおいてもはやマーケティングの道具になった感があるからだ。リッジでは代わりに、「単一畑」あるいは「特定の場所」といった用語を使うようにしている。要するにこういうことなのだが、別々の場所で育ったブドウの性格や品質は、実際に違うのである。その差が微妙なこともあれば、劇的なほど大きいこともある。テロワールについて尋ねられ、それがカリフォルニアにあるかと問われたとき、私は次のように答えることがある。経験豊かな醸造家に向い、「自分の地域にある別々の畑でとれた、同じ品種のブドウを扱ったことがありますか」と尋ねてみなさい。あると答えたなら、別々の畑からできたワインの性格、力強さ、品質などに違いがあるかと問い、その答えもイエスならばどれかお気に入りがあるかも尋ねてみる。収量が高すぎて、平凡で特徴のないブドウしか造れないような畑でない限り、お気に入りはあるはずだ。品質・個性が特別際立っている畑があれば、そのブドウだけを使ってワインを造ればよい。その時、醸造家は、際立ったテロワールあるいは特定の場所があると意識しているのである。ワイナリーの所有者の中には、マーケティングの効率を考えて、いろんな畑のブドウを混ぜたがるものがいる。しかしそれでも、どの畑が単独でも輝くかはわかっているのだ。伝統的なアプローチでは、その畑のブドウを単独で発酵、熟成、瓶詰めする。その場所で育ったブドウに、自然が与えた性格が反映されているワインにするのだ。一方、工業的なアプローチでは、異なる畑が各々もっている特質をブレンドによって注意深く組み合わせ、生産者自身がワインの性格を創り出している。

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 ポール・ドレーパー
 リッジ・ヴィンヤーズ 最高醸造責任者 兼 CEO